ぱっと目を開ける。
時計の針は午前1時を指していた。
「やっぱり寝つけないな」
約束の時間は午前2時に自分の家に集合になっている。
無理にでも仮眠を取ろうと午後9時位から横になっていたのだが、普段夜型の生活をしているとこの時間はやはり寝つけない。
そのままダラダラと時は過ぎ、約束の時間の1時間前になってしまった。
仕方なく起き上がりシャワーを浴び支度をはじめた。
ほどなくして最近少し使い慣れてきたiPhoneが、この日のために着信音に設定した石川さゆりの「天城越え」のサビを奏でる。
「けんちゃん、着いたよ」
慎吾が愛車ミニクーパーで到着した。
これからてっちゃんの到着を待ち、静岡県伊豆の天城山に向かう。そこで今回初参戦となるナルと合流し天城山登山に挑戦するのだ。
良い気候になってきたからゴールデンウィークに登山行きたいねと慎吾と事前に計画し、前回の筑波山の時の反省をふまえ、深夜に出発。現地で仮眠を取り朝8:00から入山する予定でいた。
何しろ前回の筑波山の標高877mに対し、1406mの天城山は日本百名山でも、同じ難易度★1つとはいえ厳しい登山になることが予想される。
そのために現地での仮眠時間を計算に入れても睡眠は少しでもとっておきたかった。
前回の筑波山で登山に懲りた仲間を誘うために、慎吾は終始「登山」という言葉を排除し、「ハイキング」という言葉で呼びかけた。
まんまと「それなら」と誘いに乗ったのがてっちゃんだ。彼は山をなめている象徴として、登山およびこのブログには欠かせない存在になっている。
また、初参戦となるナルは仲間内でもユッケと並んで行動が読めない存在だけに急に参加表明してきた。
気分で望むには厳しい山になるとは思うが、彼は準備に余念がなく、そつなくなんでもこなす。なので慎吾も自分も安心していた。何より彼は仲間内で一番の若さを兼ね備えている。
決め手となったのが、演歌の名曲や小説のタイトルにもなっている「天城越え」という響きだ。これが4人の男魂メンバーに刺さり今回の登山が実現した。
ゴールデンウィークとはいえ出発が深夜2時30分だ。高速、伊豆という観光地も車はスムーズに流れる。
車中は終始恋話、そして下ネタ。男は中学生以降、気の合う仲間と話す内容はほとんど変わらない。
しかし、車は流れていても伊豆は思っていたより遠かった。途中、道を間違えたりとアクシデントもありつつ、4時過ぎの到着予定が7時になってしまう。やはり仮眠を取れなかったのは悔やまれる。
そつない男、ナルはやはりすでに到着。愛車ジムニーJ11の助手席でしっかりと予定通りの仮眠をとっていた。
登山客用の無料駐車場もそこそこ車で埋まっている。次々に車が来ては登山者たちが降り立ち、天城山に入っていった。
こうなるともう睡眠はあきらめるしかない。入山の準備にとりかかる。
午前8時。予定通りいよいよ入山だ。
まずは恒例のてっちゃんの装備について触れておこう。
前回の反省からか少しは成長が見られる。
大進歩はフライターグのショルダーバックからザックへの変更。そしてエアフォース1からダナーの名作ブーツ、ダナーライトへの変更だ。
いくらハイキングとはいえ、出発時間が少しおかしいのと、天城山という名前からか多少の厳しさは感じてくれたようだ。
登山道具は持っているものの一向に山には登らない、男魂メンバー随一の道具マニア、ノリオ君からこれらを自主的に借りてきた。これは高く評価したい。
ちなみにノリオ君は数年前にこのブーツを購入して以来、フジロックとオートキャンプ数回でしか着用したのを見たことがない。ある意味今回がこの靴にとって初の本格出動になる。
下山後には見事にてっちゃんの足に馴染んでいるだろう。
そして上着はアウトドアウェアの王様、パタゴニアだ。
うん。一見いっぱしのクライマーになってきた。
しかし、それはあくまでも外見だけだった…
山の天候や気候は変わりやすい。
汗も大量にかく。
そのため重ね着をして温度調節をしながら進まなければならない。
登山中は汗をかくため少し脱ぎ、休憩時には身体が冷えないように重ねる。どんな登山の入門書にも書いてある基本中の基本だ。
しかし、彼はタンクトップ→半袖ポロシャツ(男魂展刺繍入り・ユニクロ)→裏にボア付きパタゴニア(冬用)で臨んだのだ。
まだ、暑いとはいえ4月末。しかも標高は1000m以上だ。まだまだ気温も低く、冷たい風も吹く。
案の定、入山してすぐに汗をかき上着を脱ぐ。しかし、風が強いため半袖では少し肌寒い。上着を羽織る。季節に合わないインナーとボアが汗で気持ち悪い。これを登山中終始繰り返すことになる。
加えて彼はまたも同じアイテムでの失敗を繰り返す。
スニーカーソックス。
あろうことか、くるぶしまでしかないあれを、またしても流用した。
登山ブーツの中で、ましてや他人の、しかもたいして履き込まれていないブーツのインナーで、足裏以外が素足のようなものだ。
登山道は、舗装されている一般の道に比べ、岩も多く木の根も剥き出しで足場が悪い。それだけにブーツで足首をホールドし捻らないようにしなければならない。
そのためシューレースもキツくしめるのだが、これではブーツと足が擦れ、間違いなく皮がむける。
自分などはわざわざ厚手のソックスを使用し、クッション変わりにしているくらいだ。
大体俗称がスニーカーソックスだ。
少し考えればわかりそうなものだ。
予想通り数百メートル入った所から、ブーツの擦れによる足の痛みを訴えはじめ、彼の試行錯誤が始まった。
そして思いついたのがパンツの裾をブーツインするという方法。これはかなり具合が良いようで、ご満悦だった。
しかし、予想通り数歩でパンツの裾はブーツからひょっこり顔を出す…
普段軽妙でありながら、歯に衣着せぬトークで皆を楽しませる頭脳派の兼重。
昨年はTV出演も果たし、つるの剛士と堂々渡りあってみせた。それだけにこの末端まで行き届かない服装にはがっかりだ。
だがこれ以上は悪口になってしまう。この話はこの辺にしておこう。
しかし、それくらい今回の登山はブログに載せるネタが少ない。まぁ前回のような遭難スレスレが毎回あっても困るのではあるが。
さぁ登山開始だ。天気も良いし、気持ちが良い。
玉にきずなのは、事前に調べて知ってはいたのだが、天城山はあまり開けた部分がないため景色がそんなによくない。
それでもたまに木々の隙間から見える景観は普段の生活では見れない眺望で、とても気持ちが良かった。
あまりの開放感からか慎吾が奇声をあげ、踊りはじめる。
今回の感情表現はこれで行くようだ。
写真を撮る時もこのポーズだ。テンションが高い。
遠くに風力発電所のようなものも見えた。
まったく動いていない。
3.11の震災後、電力に関しては少なからず知識を得た。
風力発電のような、発電量や発電する時間帯をコントロールできないシステムなんて意味があるのだろうかとふと思った。
節電問題になっている夏場の猛暑時に、あんな巨大な風車が回るとはとうてい思えない。
その割には結構な存在感がある。山を切り開いてあんなもの建てる意味なんてあるのだろうか?なんて考えてみたりする。
まぁ、かといって原子力に頼るのはもちろん肯定できない。
ゴールデンウィークも様々なレジャーにみんな行っているだろう。エレクトリカルパレードも復活したようだ。
今や電気に頼らないと楽しめないレジャーが多いと思う。
その点、「山に登る」という行為はどうだろう。
シンプルだけど心地よい疲労感と、達成感で満たされるレジャーに、みんなにもはまって欲しいなと思った。
いつの間にか自然を愛する思想になっている。
山にはそんな力があると思う。
あれ?
少しテンションがおかしい。もとに戻そう。
今回登る天城山は万二郎岳、万三郎岳からなっている。
まずは万二郎岳山頂を目指し、そのまま万三郎岳に縦走。そこから別ルートで入山した所まで帰ってくるものだ。
多少の疲労はあるものの万二郎岳に2時間弱で到着。
こんな休日を過ごせる幸せと、日本の力を信じてみんなでピース。
さぁまだ標高1299m。これから1406mの万三郎岳を目指さなければならない。→その2へ続く