Mt. TSUKUBA(2010.10.09)その2
2010年 10月 19日
雄介には下りの体力は残されていない。
間に合うことに望みを賭け登り進めるしか自分たちに残された道はなかった。
とはいえ一向にペースは上がらない。この時には始め元気だったてっちゃんも、案の定登山道のぬかるみとコンビニ袋に体力を吸いとられ、雄介の身体を気遣い休憩を取る余裕もなくなっていた。
山に入って1時間30分が過ぎた。本来なら頂上に着いてもいい頃だ。
しかし、一向に見えてこない・・・
この頃不安を煽るように霧がでてきた。
さらに進むと弁慶七戻り、出船入船石など晴天で時間に余裕のある筑波山登山なら、まったり見物できる名所的なものが出現してくる。
しかし今の自分たちにはそんなものを眺めている余裕はない。何を書いてあるのかはわからないが、名所名跡を説明する立て看板を横目に突き進む。

誰も口に出さないが正直遭難寸前だ。
すると慎吾の足が止まった。
頂上だ・・・
山頂からの風景は霧と、雨雲によって完全に遮られているが、自分たちはとうとう山頂に立つことができた。360度全方向ホワイトアウトした風景も中々見ることはできない。
↓わからないかも知れないがこれは頂上から撮った写真だ。

登頂の感動に浸るのも束の間、自分たちには時間がないことに気付く。
歩き始めるとロープウェーの入口が見えた。
『最終16:20』
今は16:10だ。
ギリギリ間に合った・・・
「これじゃぁ帰れない。」慎吾が皆を制する。
どうやらここは筑波山頂の中でも女体山の山頂であるらしく、頂上でつながる男体山から出るケーブルカーに乗らないと自分たちが駐車した所には行けないと言うのだ。
慎吾以外3人の安堵の顔が再び消えた。ケーブルカーの最終が同じ時間だとしたら、あと10分しかない。
いや、同じ時間だという保証はどこにもないのだ。もしかしたらあと数分で出てしまうかも知れない。
考えたくないがもう出てしまったかも知れない。それくらい誰の姿も見えなかった。
こうなったら、誰かが少しでも早く男体山の山頂に移動し、もし間に合ったらケーブルカーの運行を管理する人に話して全員が揃うのを待ってもらうしかない。
全員の足が早足になる。
どれくらい歩いただろうか。
うっすらと建物らしきものが見えた。
明かりもついている。
「まにあったの か 」
ロープウェーとケーブルカーの最終の時間は10分ずれていた。
ギリギリ最終に間に合ったのだ。
久しぶりに慎吾と会話を交わす。
「良かった。」
「ギリギリ間に合ったね」
「あぶねー」
振り返り、てっちゃんと雄介にも声をかけようとする。
が2人の姿がない・・・
早足になってしまったため2人は千切れてしまったようだ。
辺りはすっかり薄暗くなり、辺りには霧がたちこめ自分たちがどこから来たのかも見えない状態になっていた。
その時人影が見えた。
てっちゃんと雄介が来たのだ。
「てっちゃん?、雄介?」
「え、雄介いないよ」
てっちゃん1人だった・・・。
雄介の姿は一向に見えない。
「ゆうすけー」「ゆうすけー」「ゆうすけー」3人で叫ぶが返事は聞こえない。
時計の針は容赦なく進む。
その時だ。てっちゃんが山に向かって歩き出した。
「てっちゃん、どこ行くの?」
「俺、雄介さがして来る」
「でも時間が・・・」
再び霧の中に姿を消すてっちゃん。その背中は漢の中の漢だった。
5分ほど時間が経った。
人影が見え再びてっちゃんが現れたが、隣に雄介の姿はなかった。
てっちゃんが無言で首を左右に振る。
ほどなくしてケーブルカーの添乗員に声をかけられる。
「お連れの方はまだですか?」
もう最終の時間だ・・・
こうした時に最年長である自分にはいつも決断が迫られる。
数年前のキャンプで2泊3日の初日、のり君がキャンプ地直前で事故を起こして中止を決めた時。
冬キャンプで豪雪に見舞われて下山するかどうか決める時。
そして今まさに今までで最大の決断をする時が迫っていた。
こうなったら3人で下山して救助を連れて来るしかない。
俺は心を決め叫ぶ。
「ゆうすけー。絶対、絶対迎えに来るからなー」
その時だ、何かがゆっくりとこっちに向かってきた。
「ゆ、ゆうすけ」
疲れ果てた身体を引きずるように、それでも眼光はするどくまっすぐ前を見据え、こちらに向かってくる。
その姿はまさに「孤高の人」そのものだ。
感動で4人で抱き合う。俺たちは奇跡的に4人で下山することができるのだ!!



これが今回の筑波山における一部始終だ。
後は美味いそばを喰って、温泉につかり、まったりと東京に帰ってきた。
現在は活動を休止しているが、自分が尊敬するクライマーが、ある登山後に自分と慎吾にこう話したことがある。
「俺はなんで山に登るのかわかった。それは降りるためだったんだ」
今回自分たちは確かに登った。しかし降りてはいない。
帰りの車の中で慎吾がつぶやいた。
「これは登山じゃない、観光だ」
数日後—
雄介と共通の友人と飲んでいた自分は、彼をメールで飲みに誘った。
下記はその返信
「今日は厳しいかもしれない。
また連絡する!
ちなみに肉離れだった。」
観光で肉離れになった男、竹田雄介。
彼は今年一児の父になる。
間に合うことに望みを賭け登り進めるしか自分たちに残された道はなかった。
とはいえ一向にペースは上がらない。この時には始め元気だったてっちゃんも、案の定登山道のぬかるみとコンビニ袋に体力を吸いとられ、雄介の身体を気遣い休憩を取る余裕もなくなっていた。
山に入って1時間30分が過ぎた。本来なら頂上に着いてもいい頃だ。
しかし、一向に見えてこない・・・
この頃不安を煽るように霧がでてきた。
さらに進むと弁慶七戻り、出船入船石など晴天で時間に余裕のある筑波山登山なら、まったり見物できる名所的なものが出現してくる。
しかし今の自分たちにはそんなものを眺めている余裕はない。何を書いてあるのかはわからないが、名所名跡を説明する立て看板を横目に突き進む。

誰も口に出さないが正直遭難寸前だ。
すると慎吾の足が止まった。
頂上だ・・・
山頂からの風景は霧と、雨雲によって完全に遮られているが、自分たちはとうとう山頂に立つことができた。360度全方向ホワイトアウトした風景も中々見ることはできない。
↓わからないかも知れないがこれは頂上から撮った写真だ。

登頂の感動に浸るのも束の間、自分たちには時間がないことに気付く。
歩き始めるとロープウェーの入口が見えた。
『最終16:20』
今は16:10だ。
ギリギリ間に合った・・・
「これじゃぁ帰れない。」慎吾が皆を制する。
どうやらここは筑波山頂の中でも女体山の山頂であるらしく、頂上でつながる男体山から出るケーブルカーに乗らないと自分たちが駐車した所には行けないと言うのだ。
慎吾以外3人の安堵の顔が再び消えた。ケーブルカーの最終が同じ時間だとしたら、あと10分しかない。
いや、同じ時間だという保証はどこにもないのだ。もしかしたらあと数分で出てしまうかも知れない。
考えたくないがもう出てしまったかも知れない。それくらい誰の姿も見えなかった。
こうなったら、誰かが少しでも早く男体山の山頂に移動し、もし間に合ったらケーブルカーの運行を管理する人に話して全員が揃うのを待ってもらうしかない。
全員の足が早足になる。
どれくらい歩いただろうか。
うっすらと建物らしきものが見えた。
明かりもついている。
「まにあったの か 」
ロープウェーとケーブルカーの最終の時間は10分ずれていた。
ギリギリ最終に間に合ったのだ。
久しぶりに慎吾と会話を交わす。
「良かった。」
「ギリギリ間に合ったね」
「あぶねー」
振り返り、てっちゃんと雄介にも声をかけようとする。
が2人の姿がない・・・
早足になってしまったため2人は千切れてしまったようだ。
辺りはすっかり薄暗くなり、辺りには霧がたちこめ自分たちがどこから来たのかも見えない状態になっていた。
その時人影が見えた。
てっちゃんと雄介が来たのだ。
「てっちゃん?、雄介?」
「え、雄介いないよ」
てっちゃん1人だった・・・。
雄介の姿は一向に見えない。
「ゆうすけー」「ゆうすけー」「ゆうすけー」3人で叫ぶが返事は聞こえない。
時計の針は容赦なく進む。
その時だ。てっちゃんが山に向かって歩き出した。
「てっちゃん、どこ行くの?」
「俺、雄介さがして来る」
「でも時間が・・・」
再び霧の中に姿を消すてっちゃん。その背中は漢の中の漢だった。
5分ほど時間が経った。
人影が見え再びてっちゃんが現れたが、隣に雄介の姿はなかった。
てっちゃんが無言で首を左右に振る。
ほどなくしてケーブルカーの添乗員に声をかけられる。
「お連れの方はまだですか?」
もう最終の時間だ・・・
こうした時に最年長である自分にはいつも決断が迫られる。
数年前のキャンプで2泊3日の初日、のり君がキャンプ地直前で事故を起こして中止を決めた時。
冬キャンプで豪雪に見舞われて下山するかどうか決める時。
そして今まさに今までで最大の決断をする時が迫っていた。
こうなったら3人で下山して救助を連れて来るしかない。
俺は心を決め叫ぶ。
「ゆうすけー。絶対、絶対迎えに来るからなー」
その時だ、何かがゆっくりとこっちに向かってきた。
「ゆ、ゆうすけ」
疲れ果てた身体を引きずるように、それでも眼光はするどくまっすぐ前を見据え、こちらに向かってくる。
その姿はまさに「孤高の人」そのものだ。
感動で4人で抱き合う。俺たちは奇跡的に4人で下山することができるのだ!!



これが今回の筑波山における一部始終だ。
後は美味いそばを喰って、温泉につかり、まったりと東京に帰ってきた。
現在は活動を休止しているが、自分が尊敬するクライマーが、ある登山後に自分と慎吾にこう話したことがある。
「俺はなんで山に登るのかわかった。それは降りるためだったんだ」
今回自分たちは確かに登った。しかし降りてはいない。
帰りの車の中で慎吾がつぶやいた。
「これは登山じゃない、観光だ」
数日後—
雄介と共通の友人と飲んでいた自分は、彼をメールで飲みに誘った。
下記はその返信
「今日は厳しいかもしれない。
また連絡する!
ちなみに肉離れだった。」
観光で肉離れになった男、竹田雄介。
彼は今年一児の父になる。
by dankonten
| 2010-10-19 18:29